スエズ運河がもたらす地理的優位性
エジプトが有する最大の強みの一つは、世界の海運の要衝であるスエズ運河に面した地理的条件です。スエズ運河は、アジアとヨーロッパを最短で結ぶルートであり、世界の物流の大動脈と呼ばれています。政府はこの優位性を活かし、「スエズ運河経済帯(SCZone)」を設け、外国企業に対してさまざまな優遇措置を提供しています。具体的には、法人税や関税の軽減、土地リース料の割引などが挙げられます。この経済帯に拠点を置くことで、ヨーロッパ、中東、アフリカといった主要市場を同時にターゲットにでき、効率的なサプライチェーンの構築が可能となります。

国内物流インフラの現状と課題
ただし、この立地優位性を現実の事業成果につなげるには、国内物流の現状を正しく把握する必要があります。経済帯そのものの設備は徐々に整備が進んでいる一方、道路網や港湾施設の処理能力にはまだ課題が残されています。特に首都カイロなど大都市部では慢性的な交通渋滞が発生しており、輸送にかかる時間やコストが想定以上に膨らむリスクがあります。そのため、単に「地理的に便利」というだけではなく、物流の実態やリードタイムを踏まえた計画を立てることが重要です。

法制度・行政手続きへの対応
また、事業を行う上で避けて通れないのが法制度や行政手続きの問題です。エジプトでは外国企業にとって不慣れなルールが多く、法的・行政的なハードルを一社で乗り越えるのは容易ではありません。信頼できる現地の法律事務所やコンサルティング会社と提携することで、各種の手続きを効率化できるだけでなく、税務や労働契約に関する独自の規制を理解し、リスクを最小化することが可能です。特に、現地の雇用慣習や解雇規制は日本とは大きく異なるため、人事労務管理には細心の注意が求められます。

現地文化とビジネス習慣への理解
さらに、日本的なビジネスの進め方とエジプトの商習慣との違いにも注意を払う必要があります。例えば、時間に対する感覚は比較的柔軟で、約束の時間や納期が厳格に守られないことも珍しくありません。また、組織文化として階層意識が強く、上司の承認を待つ傾向があるため、日本で一般的な「自発的な報告・連絡・相談」が徹底されない場合もあります。こうした文化の違いを理解した上で、現地のパートナーや従業員と良好な関係を築くことが、事業の円滑な運営につながります。
持続的成長に向けた姿勢
結論として、エジプト進出にあたっては、法制度や物流インフラの課題を「障壁」として捉えるのではなく、事前に調査を行い、専門家の助言を得ながら着実に対応策を講じていく姿勢が不可欠です。その上で、現地文化を尊重しつつ柔軟に対応することで、スエズ運河という世界的な地理的優位性を最大限に活かし、持続可能な成長を実現できると考えられます。
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