中国の高齢者向けビジネス、いわゆる「シルバー産業」はこの数年で大きな変革を迎えました。中国政府の方針、少子高齢化社会、介護ロボットの進化、そして加速する日本の円安など、それぞれが影響し合い、現在は混とんとした状態になっています。
この記事では、中国滞在経験のあるライターBILLIKENが、日本の円安と中国シルバー産業の現状について考察します。
中国で高まる介護需要
中国国家統制局の調べによると、高齢者の人口は2000年には0.88億人でしたが、2020年には1.7億人に増加するなど、高齢化社会が加速していることが見て取れます。それに伴い、シルバー産業の市場規模は2018年に6.2兆元、2024年には11.2兆元と、急成長が見込まれています。いくつかの日本企業は、早くから中国の人口の割合変化を先読みし、現地のシルバー産業に参入してきました。しかし、この数年で状況が大きく変化し、いわゆる日本式が通用しなくなってきました。介護の内容は、日本でも中国でも大きな差はありませんが、中国では在宅介護が主流となっています。
そのため、訪問介護やリモート介護等のニーズが潜在的にあるのです。さらにその先には、一人っ子政策による平均家庭人数の減少により、徐々に社区養老(コミュニティ介護)・施設養老(施設介護)の需要が高まっていくことが見込まれています。
日本企業に勝機はあるか?
近年は、中国の都市の発展や所得の中間層の増加により、より高品質な介護サービスの需要が増えると考えられています。そうしたトレンドの中で、日本企業が参入して勝算があるのが「介護ロボットやAIの活用」でしょう。介護ロボット市場は、世界的に見て未だ小規模です。国際ロボット連盟によると、2020年時点での市場規模は約8000万ドル(75億円強)で、供給側のほとんどが日本製の介護ロボットが占めています。高齢化の進む日本では、介護人材の不足もあり、介護ロボットが現場に導入されています。
実際、東京にある特別養護老人ホームでは、ペット型アザラシ型ロボット「パロ」や、人型ロボット「ペッパー」が欠かせない存在だと言います。さらに、歩行支援ロボット「Tree」は、お年寄りに寄り添いながら歩行補助を行ってくれるため、利用者から大変重宝されているそうです。中国では、これまで公的介護保険制度が整備されておらず、専門的な介護サービスを受けるためには費用が高額なので、利用できるのは一部の富裕層に限定されていました。しかし、2020年を境に、公的介護保険制度が徐々に普及してきています。今後、ロボットやAIを活用した介護サービスが公的保険の適用対象となれば、中国の介護ロボット市場も大きく広がることでしょう。これは日本にとっても大きなビジネスチャンスになります。日本としては、現在の円安の波を上手く利用し、中国における市場展開に備えておく必要があるでしょう。
執筆:BILLIKEN
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